優しい胸に抱かれて

 私と佐々木さんを引きはがそうと腕を出す。それでも離そうとしない相手に、目を細め冷ややかな視線を送る。

「…佐々木さん。俺、本気で訴えますよ?」

「だったら、離すなよ」

「もう二度と離さないんで、この手をまず離してもらっていいですか?」

「やだね。ロリコン」

「…だから、それは佐々木さんじゃないですか?」

「俺は工藤と違ってロリコンじゃない」

「俺だって違いますって…」

 睨みを利かせていた2人は、おかしくもないのに顔を見合わせて笑った。何でもいいから腕を離して欲しい。と、腕の隙間から訴える私を無視して。


 席に落ち着いていた島野さんが目元を緩ませ、こちらを見上げた。白い封筒をひらひら扇いでいる。しかも、日下さんの顔の横で。当の日下さんは鬱陶しそうにそれを腕で払い除けた。

「これは破り捨てていいのか?」

「はい…。すみませんでした。色々と…」

 居心地悪そうにする私に「手を焼かせやがって、馬鹿め」と、私が提出した退職届を一思いに裂いた。びりっと爽快な音がした。

 朝礼のあと、部長室へ呼ばれた。風邪を引いたからだろうか、気を揉む私は恐る恐るノックをした。

「失礼します」

「殺されるとでも思ったか?」

 眉を寄せた私をちらっとだけ見て、鼻で笑った部長は「吹っ切れたようだな」と、ぎぃっと椅子を鳴らした。

「申請書出しておけ。工藤の分ももらって来い」

 引き出しから何か用紙を取り出し、机に投げた。覗き込むと早退と有給の申請書だった。