優しい胸に抱かれて

「紗希は運転禁止。助手席専門」

「…はい。ごめんなさい…」

「紗希、手開けて」

 それまで好きにさせていた手は、いつの間にかぎゅっと握った形状になっていた。

 ゆっくり開けると、もこもこした何かに指輪がはめ込まれていた。

 指輪を外し白くてもこもこしたものをよく見ると、羊毛フェルトのキッドで作られた羊だった。


「…上手」

「何でもやろうと思えばできるってこと、だな?」


 ポメラニアンは柴犬に変貌したけれど、きちんと角もあって、毛を刈り取る前のもこもこしていて羊だって一目でわかる。


「飾るって自分で言ってたけど…?」

「うん。だから、飾ってくれてるんだろ? 嘘は言ってない」

「…そうだけど」

 そういう意味で飾るなんて言ったのか、何かが違う気がする。しっくりきていない私の頭を撫でて帳消しにするのだから、ずるい。けど、それさえも次の一言で帳消しにした。


「紗希? 俺には紗希が必要」

「…私にも紘平が必要」

「また、俺と付き合ってください」

「はい…」


 顔を見合わせ、お互いの瞳に恥ずかしそうに照れて笑う顔を映した。



 ちょっとだけ、遠回りしたと思えばいい。遠回りした結果、今まで気にしてこなかったものが見つけられればいい。

 分厚いアスファルトを突き破って、必死で生きようとしているタンポポだったり。蓄えるために必死で働く蟻んこの列だったり。喚いて、足掻いて、もがいているのは人だけじゃない。


 私たちらしく、ゆっくりでいい。焦る必要なんてない。同じことを繰り返して、同じとこで躓いて転んでも。ゆっくりじっくり見つけていけばいい。

 そうやって遠回りして、気づけなかった大事なものが自ずと見えてくるのだから。