優しい胸に抱かれて

 絡めて包まれて1本の指だけ握られたり、手を弄られながら、私は口を開いた。

「どうして…、部長は森田さんを訴えなかったのかな? だって、あの当時森田さんの仕業だって解ってて、やり過ごしてたってことでしょ?」


 今回の件で、おかしいと思った点がそれだった。調べれば当然明るみになる。だけど、部長は上に報告するわけでもなく。しかも、あの部長がやられっぱなしでいること自体がおかしい。

 今回、島野さんがそうしたように食い止めることなく、最終的に森田さんから辞めていった。


「うーん、多分さ…。これは憶測だけど、気づいてほしかったんじゃないか? 部長と森田さんこと知ってから思ったんだ。恨み辛みの自己満足で優越に浸って、こんなことをしても誰も幸せにならないって。部長は気づいて欲しかったから、やられっぱなしでいたんじゃないかって。ある意味部長のエゴだったのかもなあって」

「あっ…」

 だったら頷ける、島野さんを巻き込んだことへの罪悪感。あんなに後悔していたのも納得できる。


「部長自身が退こうとしてたのかもしれないけどさ、最終的に全員巻き込んじゃったから部長の後悔は相当だったんじゃないか? だから、あの人はあの人なりにみんなに対して責任取ろうとしてるんだろうなって思うんだ。俺らが好き放題できているのは部長が尻拭いしてるからだろうなあって。…癪だけど、な?」

「うん、そう思う。…憎たらしいけどね?」

 私たちはおかしそうに微笑んだ。次に紘平は、困ったような表情を落とす。私も同じような顔をした。


『…工藤に何かあった時に、支えにもならねぇ状態でどうすんだよ、しっかりしろ!』

 日下さんのはっきりとした声に、両肩を掴まれて揺さぶられる私が映った。


「紗希? 俺を想って泣いてくれて取り乱してくれるのは嬉しいんだけどさ。…こういう時こそタクシー乗るべきだと思わない?」

「…ごもっともです」

 しばしの沈黙を経て、返事をした私は身を竦めた。