優しい胸に抱かれて

 過保護な紘平の看病の甲斐があってか、こじらせることなく日曜の晩には、一時的に失った体力は回復傾向にあった。私の身体は余程単純な作りらしい。


「無理しないで寝てなさい」

 なんて言われても、3日間寝たきり状態だったのだ。立ったり、座ったり、横向いたりうつ伏せになったり。体勢を変えながらベッドで横になるのも飽きていた。


 リビングに顔を出すと、紘平はソファーで片膝を立て、難しい顔でスマホを覗き込んでいた。耳にイヤホンをつけて。

 大人しくしてようと、ソファーの隅に腰を沈ませ私の体を、伸びてきた腕が引き寄せる。広い胸の中にぴったりと吸い付いた。顔を浮かせると、真剣な顔つきでスマホを見入っている。

 覗き込もうとしたわけではなく、視線を落とせば自然と映り込んでしまったわけで、何を真顔になって見ていたのかと思えば。


「な…、なっ…。なん、で」

「しーっ」

 唇に人差し指を立て、私の片耳にイヤピースを押し当てる。完全に差し込まれたイヤホンからは、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。


 SNSの無料通話アプリ、相手は島野さん。こうしている今も、嫌がらせのような凄まじい量の動画が送り付けられてきている。


『面倒くせぇな…』を連発する日下さんの気持ちがよくわかる。椅子や机に体当たりして日下さんに取り押さえられ、手を付けられない状態の私が映っている。

 これは、あの時の動画だ。


「痣の原因はこれか…」


 確かに痣だらけで不思議ではあったけれど。最早、原因なんて知らなくてよかった。

 冷静な気持ちで客観的に見ている今となっては、どうしてこんなに取り乱しているのか謎でしかない。

 でも、あの時は本当に胸が引き裂かれるような思いだったのだ。


 何事につけ動画に突っ込みを入れる紘平は、そのほとんどが私の喚いている声でかき消されているにも関わらず、最後まで真面目な顔で見入っていた。