優しい胸に抱かれて

 小さな電子音が割と近くから聞こえて、目を開けた。瞼の違和感といい、背中の鈍い痛みといい。あまり、目覚めはよろしくなかった。


 視界に映る天井は見覚えがある。サイドテーブルの上の写真立てには姿の変わらない私が映っている。

 音が鳴り止み「よかった、熱下がってる」安堵の声が漏れ聞こえた。


 声がした方へ顔を向けると、肘をついてこちらの様子を伺う紘平の顔があった。


「起こしちゃったか。一応、熱は下がったみたいだな。気分は?」

「…紘平? 聞きたいことがあるのっ。綾子さんは、元気?」

「…綾、?」

 シャツを掴んで揺する私に拍子抜けした表情をして、すぐにムッと口を尖らした。


「紗希、約束が違う」

「…へ? やく、そく?」

「忘れた? 夢じゃないって確かめ合う約束。それに、綾なんかより、まずは自分の体」

 一瞬、何のことかわからなかった。言われてもわからなかった。


「…あれは、夢の中の話で。でも、夢じゃない…?」

「紗希? 体温計壊れてんのか、まだ熱あるのか?」

 と、額に手を当てたり、首を触ったり、体温計をまじまじと見やる。


「…夢じゃ、なかったんだ」

 そう言いながらも、「夢じゃない」と言われても、夢なのに夢じゃない状況がピンとこない私は、枕の上で首を傾げた。


「綾、電話じゃ元気そうだよ。あの様子じゃ、近々来そう」

「よかった…」

 涙目になる私とは反対に、大きく息を吐いて嫌そうに眉を顰めた。