優しい胸に抱かれて

『…出向行って、最初の3ヵ月はちっとも仕事がなくて、依頼は来ないし。1人があんなに不安なものだって知らなかった。別れないであのまま紗希と繋がってたら、きっと俺は楽な選択肢選んで、逃げ帰ってたかもしれない。胸張ってさ、自信つけて戻りたいって思ったのは、紗希がいたからだよ。戻ってまた、一からやり直せたらいいなって…』

『…もし、もしも私が誰か別の人と一緒だったらどうしてたの?』

『振り向いてもらうまで、つきまとってただろうなあ…。だけど、部長と吉平の妨害が発動してただろうから』

『…へ? よっしー…?』


意外な人物の名前に、見ている私も驚いた。


『あの2人にだけは言ってあったんだよ。紗希のことよろしくってさ。紗希がそれで幸せならいいけど、もし変な奴に付き纏われてたら阻止してって。吉平はだったら別れるなって、すごい怒ってたけど。紗希? 俺は紗希が思ってる程、優しくない』

『それ、前にも言われたことある…』

『現に、理由も言わず一方的に別れようって終わらせた。それも、紗希のことだから抵抗しないで従うだろうって考えてた。俺に負担掛けないように、邪魔しないようにって、1人で悩んで我慢してたのを知ってて背けてた。ずるくて卑怯で、最低。俺は、優しくない』

『…私ね、忘れたかったの。紘平のこと、全部。何もかも、忘れたかった。思い出すから苦しい、覚えてるから辛い。実際ね、忙しくしてる間に忘れてた。部長にその名前聞くまで、忘れられてた。…会ったらダメだった、全然忘れられてなくて、どうして忘れられないんだろうって思ってた。こんなに好きだと思える人は、他にいないってわかった』

『紗希…。ごめん』

夢の中の[私]は、当然泣いていて、やっぱり見ている私も泣いていた。