優しい胸に抱かれて

夢の中の[私]は寒くて寒くて震えているらしかった。


『苦しい? 寒い?』

『さ、むい』

『熱上がってる証拠。ちょっと待ってて』

隣の温もりが消えて、一気に寒気が押し寄せてくる。ほんの一時にしか過ぎないのに、見てるだけの私も無性に心細くなった。

『確か、電気毛布とか湯たんぽとか置いてったよな、あいつ…。この際手段を選んでる場合じゃないからなあ…。脱水症状にならないように気を付けて見てればいいか…』

紘平はぶつぶつ独り言を口にしながら、クローゼットを漁っているようだった。

衣擦れの音がして、再び包まれた温もりに安心した[私]はどうやら眠ったらしい。


夢の中でも寝てるって、どういうことなのだろう。そこで寝ている[私]もまた、別の夢を見ているってことなのだろうか。

苦しそうに、熱に浮かされているらしい[私]は、隣で温もりを与えてくれる紘平を時々困らせていた。


『お水、飲みたい…』

『座れる?』

『すわ、れない…』



『背中…、痛い』

『どこ? ここ?』

『もっと、う、え…、もうちょっと、上…』

『ここ? 紗希? ここは背中じゃなく肩だよ』



『シャワー、浴びたい』

『馬鹿なこと言うな。黙って寝てなさい』



『…オムライス、食べたい』

『はいはい、熱下がったらな?』

『下がったらって、いつ…、明日?』

『んー、し明後日くらい…』



『えっとね、金曜の夜はレイトショー観て。土曜日はあの灯台に行きたい。それでね、日曜日はだらだら過ごすの』

『うん。色々したいのはわかったから、まずは治そうか?』


ここでぐったりしている[私]は、とんでもなく子供みたいな駄々をこねていて、見るからに手を焼いている感が伝わってくる。どうしようもないなと、自分でも呆れた。