優しい胸に抱かれて

 そうじゃないのに。

 言葉にならなくて、佐々木さんには伝えられなくて。力を込めて腕を握る。

 せめて、その思いが腕を通して伝われば。


「な、なん、で…、っ…。佐々木さん、ひどいっ! ちが、う…。やだっ!」

「酷いのはどっちだよ?」

 色のない表情をする佐々木さんは掴まれた腕を引き剥がすと、私を突き飛ばした。


 それを支えた日下さんに引き寄せられる。

「こっち来い」

「なん、で…、っ…」


 涙で滲む、温度が低くなった佐々木さんの姿。



 こんな事態でも誰もが動こうとせず、無意味な話に意識を持っていかれていた。


「工藤をターゲットにしてよかったね、面白いものが見れた。島野の青褪めた顔とか…? 人がここまで取り乱す姿とか。なかなか見られないよね」

「何で、工藤だったんだ?」

「出向から戻って来たのは公表された辞令で知っていたからね。戻ってきて調子に乗っていたのか、いきなりやってきて、発注漏れの原因を調査を要請してきてね。事実上、ミスはないんだから周りは相手にしなかった。けど、剥き出しの敵意みたいなものを俺にぶつけてきたから」

「敵意…、か。隠すならとことん隠すんだな、俺らにもな。部品だけ別便、なんて不自然な形じゃなく徹底的にやれよ。バレバレだろ、詰めが甘い。それに…」

 島野さんがちらりとこちらを見た気がした。

「あいつは、調子に乗ってたんじゃない。出社した早々に、好きな女が困っていたから放っておけなかっただけだ。立場とか出世とかどうでもよくて、好きな女のために動いただけ。あいつはそういう奴なんだ」

「…なんだよ。怒鳴り込んだって聞いたけど、ただの指摘じゃねぇか。あいつらしいな」


「私の…、せい…」


 思考は完全に閉ざされ、きちんと自分の足で立っているのかすら、わからない。