優しい胸に抱かれて

「…島野と申します、いつも紘平さんには……。状況は把握できていないのですが……。救急車で運ばれまして……。大変申し訳ありません……」


「ち、がうっ…。や、だっ…」


 よそよそしい口調はリアリティーの欠片もない。

 だけど、受話器が置かれた時に発する電子音そのものが、生々しくリアルで。

 そこには一筋の光さえ感じられなくて。


「違うって、嘘だって…、言って…っ!」


 頬を伝う涙が冷たく感じた。

 最初の涙が零れ落ちてしまえば、あとはもう止めることはできなかった。


 瞼に溢れた涙はひとりでにはらはらと流れた。



「…さすが、職人肌。やってくれたんだね」

「それがクライアントのお望み、でしたので。足場の細工くらい、造作もない」

「あの当時、味方にはついてくれなかったけど、5年も経てば心境が変わるもんだね。守るものが増えると大変だよね、お互い。…あっさりと従うんだから。事故を起こして滅茶苦茶にしろって指示をね」

「この連中に付き合うのもほとほとうんざりだったところだし。まぁ、長いものに巻かれていれば楽だから」


 佐々木さんの言い方は、まるで私たちを突き放した口ぶりで、冷たい言葉が深々と胸に突き刺さる。


「さ、さ、さき、さんが…」

「いってぇ、動くんじゃねぇっ。お前を取り押さえている俺の身にもなれ」

 なぎ倒された椅子や机にぶつかり、鈍い痛みを引きずりながら佐々木さんの元へ駆け寄り、組んでいる腕を掴む。


「佐々木さんっ、嘘! 佐々木さんが…、うそ、違うっ! ねぇ、そうですよね! 佐々木さんっ!!」

「お前を散々苦しめたんだ、死んだって構いやしないよな?」

 本気で見捨てた冷たさを瞳で表わし、光のない眼差しを振り落とす。