優しい胸に抱かれて

「からかわれたんだと思って相手にしなかった。それどころか、日下の邪魔が入った。設計図を盗んだのは腹いせか? そこで、冷静になればよかったのだろうが…」

「面白い作り話だね、日頃から物造りに携わっていると、話まで造るのが長けてくるのか」

「これ、会社で割り当てられているお前の番号だな? 足がつくとは考えられなかったのか?」

「携帯か、間違いなく俺が使っている番号だ。でも、常に持ち歩いているわけじゃない。結構、机に置きっぱなしにするんだよね」

 頭の後ろに手を当て、わざとらしく舌を出すような真似をする倉光さんへ、島野さんの厳しい非難が寄せられた。


「そんなことはどうでもいい。俺が言いたいのは、そうやってうちの取引先に断りの電話を入れ、施工のスケジュールを滅茶苦茶に壊した。しかも、日下の贔屓にしている取引先だ。目論んだ内部分裂はあっさりと成功した。隠蔽に協力的な味方をつけるのは、誰でもよかったんだよな? 例えば、佐々木でも…」


 その場にいた全員の視線を集めた佐々木さんは、その誰をも見ていない。壁の一点をただ見つめていた。


「…佐々木さんが?」

 掠れた声が出た。日下さんはお茶を手に持たせ「飲むか?」と、聞いてきた。また、怒鳴られるのかと思ったら、渡されたお茶を一口含む。

 熱くもないのに、喉の奥がカラカラだった。だけど、それ以上は体が拒否してペットボトルの蓋を閉めた。

 日下さんは、もう「面倒くせぇ」とは言わなくなった。


「熱くなりやすいからな、特に佐々木は現場肌だし。よく、知ってるよな? お前は」

「もちろん。一歳下の元、俺たちの可愛い後輩だからね…」


 ピリリリリッ…。


 不気味な笑みと共に、どこからか携帯がけけたたましく鳴った。


「悪い、平からだ…。はい、島野です」

 取り出した画面に目をやり、断りを入れ携帯に出た島野さんの表情が固まる。顔がセメントで固められたみたいに青く強張った。


「…大学病院だな、わかった。平はそのまま救急車に乗ってくれ。俺は工藤の家族に連絡する。…頼む」

 島野さんは電話を切ると、慌てた様子で書棚からファイルを抜き取り受話器を上げた。