優しい胸に抱かれて

「…ありがとうございます」

「1個食うのに時間かけてんじゃねぇよ」

「まだ食べ始めて、30秒くらいです」

「うるせぇよ。よくあいつは耐えられんな、お前のお守りする保護者は大変だ。面倒くせぇだけだもんな」

 隣の佐々木さんの椅子へ日下さんは背もたれを前にして跨り、マスクを顎に引っ掛け噛まずに飲みこんでいるみたいに、せっかちにおにぎりを食べる。

 お守りだの保護者だの、よくわからないと、頭を傾けた。


 島野さんは[名前の知らない人]の元へ、つかつかと歩み寄り、低い声を出す。

「早く何とかしろと課長に言われでもしたか?」

 感情の籠らない声に驚き、顔を上げた。手からぽろっと白い物が落ちる。

「あぁ、ほんと面倒くせぇな…。せめて早く食えよ」

 椅子を滑らし近くへ寄った日下さんは、苛立つ声で私が溢したご飯の欠片を拾ってくれていた。


 私の視線は捕らえられ、離せないでいる形容のできない表情は、初めて見る島野さんの冷酷無情な顔だった。


「まあ、そんなところですね。色々大変なところ申し訳ないが、早く引取ってくれませんか? スライディングウォール。そちらの発注ミスのおかげで倉庫占領して困ってるんですよ、なんていったって100枚ですからね」

「そのうち、引取りに行くから黙って置いとけ。相変わらずムカつく面だな。その言葉遣いやめろ、気色悪い」

「やつあたりですか? 相も変わらずこの部署は口の悪い連中ばかりでみっともないですね」


「お知り合い、ですか…?」

 無視して対峙する2人は、顔見知りどころかよく知っている間柄なようで、作業場一帯を見回した[名前の知らない人]は、声を発した私の方を見て微笑んだ。