「調べるも何も…、調べ尽したあとじゃない」
椅子を倒し腰を上げた私に、向かいの2人は「またこいつは…」と、言いたげな呆れた顔を表した。
クリアファイルを抱え席に戻ろうとしていた私は、小石に躓いたように何かに足元が引っ掛かり、事もあろうか日下さんの椅子へ体当たりをしてしまった。足元には何もなく、散々怒鳴られたあとだった。
島野さんと日下さんは訝し気に見守っていたのだが、どうやら1人で音を立て騒がしかったらしい。椅子を起こし目を合わせれば、2人の顔が「うるさい」と言っている。
「すみません…」
そう謝って2人へ資料を渡す。揃って「ふーん、詰めが甘い」、「馬鹿くせぇ」などとぼやきながら見下すように書類を眺めている。
「出揃ったな」
「やっぱくだらねぇな。煙草吸ってくる」
「俺も行く。柏木、部長から決裁下りたから処理しとけ」
どさりと置かれた、昨日のお返しかと思えるよな大量の書類。見上げれば勝ち誇った顔をして目を細めた島野さんの口が動く。
「その饅頭の理由部長から聞いたぞ。だから言ったんだ、辞めない確信があるってな。絶対、だっただろ?」
部長みたいな言い方をし、答えを聞かずして確信が保証された。そう受け取ったらしい島野さんは笑いながら肩を揺らし歩いて行く。
あの人たちは私の知らないところで、どんな会話をしているのだ。降って沸いた疑問は知らない方がいい気がして、全身の力が抜けていくのを感じた。
頭が痛い。こめかみを押さえながら打ち込みだけの単純な事務処理を続け、煙草と言って出て行った2人は、昼まで戻って来なかった。



