記憶とは異なるそれは別物に見えて、口を開き出た声は頼りなくか細い声。
「だって、別れようって…、言った。別れたくなるくらい、嫌いになったってことでしょ…」
「うん、言った。別れようとは言ったけど、嫌いになったとは言ってない」
それでなくても解らないのにややこしい言葉を紡ぐ唇は、ややこしさのレベルを上げた。
「俺の問題。俺が紗希のこときちんと受け止められなかったから…」
何を言ってるのだろうと、動く唇の輪郭だけを見つめていた。
「出向のことも、仕事のことも、出世とかデザイナーとか何も考えてなかった。俺からすればどうでもいいことで、隣に紗希がいて、一緒にいれればそれでよかったんだ。だけど、俺にもっと力があればさ、日下が紗希にふっかけることはなかっただろうし、紗希はそれを気にすることもなかっただろ?」
触れられる指先から伝う、火照るような刺激。
「ほんとに何も考えてなかったから、我慢させて淋しい思いをさせてるのが俺だったから。俺が紗希に無理な笑い顔をさせてるのかと思ったから。紗希は一人っ子だしさ、このままだと両親に顔向けできないし、しっかり考えないとダメだなって思ったんだ。だから、出向に行くのを決めたんだ」
左手の薬指が、ズキズキと鈍く疼く。
『あいつが出向を先延ばしにしたのはお前のせいだ。現抜かしてる場合じゃないって気づいてやれよ。お前が邪魔してるんだよ、あいつの可能性を。俺が3年後戻ってきた時、かなりの差が付いてる』
出向へ行き、出遅れることなく差を埋めた。その理由が私のためだと、日下さんが言った。
『なんで工藤が2年で戻ってきたか解るか? お前のためだ、俺がお前に言ったことに、あいつはお前に負い目を感じて欲しくなかったからだ』
締め付けられる指から、頭の片側に痛みが走る。
「だって、別れようって…、言った。別れたくなるくらい、嫌いになったってことでしょ…」
「うん、言った。別れようとは言ったけど、嫌いになったとは言ってない」
それでなくても解らないのにややこしい言葉を紡ぐ唇は、ややこしさのレベルを上げた。
「俺の問題。俺が紗希のこときちんと受け止められなかったから…」
何を言ってるのだろうと、動く唇の輪郭だけを見つめていた。
「出向のことも、仕事のことも、出世とかデザイナーとか何も考えてなかった。俺からすればどうでもいいことで、隣に紗希がいて、一緒にいれればそれでよかったんだ。だけど、俺にもっと力があればさ、日下が紗希にふっかけることはなかっただろうし、紗希はそれを気にすることもなかっただろ?」
触れられる指先から伝う、火照るような刺激。
「ほんとに何も考えてなかったから、我慢させて淋しい思いをさせてるのが俺だったから。俺が紗希に無理な笑い顔をさせてるのかと思ったから。紗希は一人っ子だしさ、このままだと両親に顔向けできないし、しっかり考えないとダメだなって思ったんだ。だから、出向に行くのを決めたんだ」
左手の薬指が、ズキズキと鈍く疼く。
『あいつが出向を先延ばしにしたのはお前のせいだ。現抜かしてる場合じゃないって気づいてやれよ。お前が邪魔してるんだよ、あいつの可能性を。俺が3年後戻ってきた時、かなりの差が付いてる』
出向へ行き、出遅れることなく差を埋めた。その理由が私のためだと、日下さんが言った。
『なんで工藤が2年で戻ってきたか解るか? お前のためだ、俺がお前に言ったことに、あいつはお前に負い目を感じて欲しくなかったからだ』
締め付けられる指から、頭の片側に痛みが走る。



