優しい胸に抱かれて


『ここ気に入っちゃった。大人な味ー』

『大人な味? 何それ?』

向かいでよっしーと平っちが笑いながら言い合う。

『今年の一年生は元気だな。柏木、ぼけっとしてないで早く食えよー。意外にトロい奴なんだな』

島野さんは不機嫌そうな顔をする。佐々木さんは目を三角にする。とにもかくにもこれが正常。純粋にいつも怒った顔をして近寄り難いと感じていたが、実際は怒っているわけではなくて、たまに表れる目尻の皺を見抜けなかっただけ。

それと同じように、仏頂面。冷めてる女。掴めない奴。それじゃあ、話しかけられなくても不思議じゃない。そう思われていたとは知らずに、勝手にうじうじ思い悩んでいた自分がちっぽけだと。

誤解されていただけだった。勘違いしていただけだった。

ここにはたくさんの[笑顔]が詰まっている。まだまだ見えない何かが詰まっているのだろう。それを探すのも見つけるのも、私自身だ。

ヒントが、答えが見つかる度、きっと私は笑っている。声を出して。


トロい、トロい。鈍くさいとプレッシャーを与えられながらオムライスを食べきり、会社へ戻る。

島野さんに連れられやってきた書庫。いくつもの段ボール箱に今までの店舗案件の書類がごっそり、無造作に所狭しと突っ込まれていた。それだけじゃなく、作業場にもたくさん積み上げられていた。それを案件毎に分けるという仕事だった。

佐々木さんからは、今度はそれを案件毎にファイリングをして、書庫棚に月別で並べていく仕事を与えられた。10センチ厚のファイルでは厚みが足りないのやら、図面も報告書も、領収書も見積書もバラバラな物や別のところに紛れ込んでいるものがたくさんあった。

『お、意外に力持ちだな』

『おいおい、それは積み過ぎだろ!』

手が空く午後から書庫と作業場を行ったり来たりしていると、誰かが何かしら声を掛けてくれる。


二人共、自分の仕事を片づけて手が空いてからでいいと言う。でも私には、任されるような自分の仕事なんてなかった。