優しい胸に抱かれて

 気を取り直して作業場の奥へと足を進める。自分の席を通り過ぎ、島野さんの隣に立つ。出力したログをこっそり見せた。


 島野さんが受け取った記録を、粘着質な視線で執拗に送り続けている間。

 洗いざらいシステムと書類の隅から隅までチェックする。ログで判明すると安易に考えていた平っちの件だけが、調べてもわからず仕舞いだった。


 出社しなかった日下さんへ逐一報告をし、昨日は門前払いだった数社の取引先が請負ってもいいなんて、再取引の運びとなったことを伝えられた。本当ならこの報告は喜ばしいことなのだろう。

 請負料金上乗せの交換条件付きで、って兼ね合いがあったことを除けば。


「見積もりの再FAX来るはずだから処理しとけ。夜には戻る」

 戻るも何も出社していないのだから遅刻では。とは口が裂けても言えず、別の相談を持ち掛ける。

「…はぁ? 知らねぇよ。んなの、センスねぇんだから悩むなって言えばいいんじゃねぇのか? お前こそ何くだらねぇことで悩んでんだ、面倒くせぇな」

 相談相手を間違えた、部下の悩み相談役不適合者の日下さんじゃ話にならない。


 島野さんをちらっと見れば、溜め息が出そうだった。

 平っちの件は諦め、工程の調整に加えられた再見積もりの処理、発注書の直し。打ち合わせ料金、一式料金と、内訳のない文字をひたすら打ち込み、唸る私の斜め向かい。

「こっちの色か、いや、こっちか…」

 と、似たように唸る島野さんの興味はすでに異なる方面へ移ってから、かれこれ1時間が経過していた。

 私にインテリア設計を任せた店舗で、急ぎではない案件。その内観の色彩設計に取り掛かったらしいが、統一感のないカラースキームは本当にセンスが悪い。手が付けられないほどのセンスのなさが気になって仕方がない。