入社して一週間も経っていない、間もない頃。
緊張しながら私と平っちは、厳しいで有名な当時まだ課長だった強面の前川さんに連れられて、[なぽり]にやってきた。
『他の部署の奴らも知っているのは少ないが、ここが安くて旨いお勧めの洋食屋だ。余裕がある昼はここに来い。常連になれば、見えない物が見えるようになる、必ず。それを探すのも、答えを見つけるのも自分だ』
何を話し聞かせてくれているのか、さっぱりだった。
そんな前川さんが渋い顔をして食べるのはビーフシチュー。よっしーの言う大人な味だった。
見えない物の意味が解らないなりに解ろうとして、[何か]を期待して知らず知らずに足を運ぶ。
期待していた何かを、得ることも捨てることも出来ず。何かもわからない言葉をバカ正直に遂行した。何かを見つけることでさえ、一向に見いだせないで一ヶ月が過ぎていった。
ああ、こういうことだったんだ。と、この時なんとなくわかった気がして、自然と頬が緩んだ。
テーブルの上ではみんなの定着化しそうな頻度の多いお決まりのメニュー。島野さんは手ごねハンバーグを箸でつつく、日下さんはカレーライス、トッピングにベーコンを乗せている。佐々木さんは黙々とカルボナーラを口に運ぶ。平っちは熱い熱いと言いながらドリアにスプーンを潜らす。
私はずっと、この仲間に入りたかった。
広くはない[なぽり]の店内は、この日も賑わっていた。普段、気にすることがなかった物事が、縁取られていく。
常連同士が会話を楽しんでいる。知らない者同士が相席を求め合う。互いの会社の仕事内容を説明し合っている。『では、今度是非一緒に』と、ゴルフに行く約束をしている。



