優しい胸に抱かれて

 現状、打つ手はなく、責任を感じて思い詰めてしまうのは致し方ない。にしても、彼女を責めるのは矛先が違う。フリーズし棒立ちになる丹野さんを後退させようと、2人の間を縫うように割り込んだ。

「平っち、落ち着いて?」

「落ち着いていられるか! 何にも知らされていない現場に突然荷物が到着して、澤井部長がどうなってんだってカンカンで、うちとの契約を考えたいって。…損失の額はデカくて信用丸潰れだ。商品部からは急な対応で迷惑だってやっかまれて。解るだろ、取り返し付かないミスだってことくらい! なんも解らない新人や柏木みたいに能天気じゃないんだ!」

 色が消え蒼白な顔色はみるみる紅潮し、早口でまくし立てる平っちに対峙し、すごむことなくぎゅっと眉を寄せ見据える。


「へぇ、…脳天気か。柏木は単細胞なだけじゃねぇのな」

 背中で日下さんの感心する声を受けながら、瞳を揺らす平っちへ詰め寄った。

「…何それっ、能天気って」

「部長が島野さんに柏木の退職届渡してるとこ見たんだ、辞めるんだから関係ないもんな、能天気じゃんか。島野さん、早く処理しちゃってくださいよ。退職間際の脳天気な柏木なんか目障りだ」

「そうだけど…、だけど、平っちだって脳天気じゃない! こんな事態になったって今度の金曜日は楽しみにしてた合コンに行くんでしょ?」

「なっ、俺のこと合コンしか脳がないみたいに言うな! 柏木は馬鹿でムカつく最低な女だ」

 激高する平っちの口角泡が顔に飛んできそうだ。先ほどより血色良くなった表情は真っ赤で、目を必要以上に吊り上げる。


 ムッと唇を曲げる私に立ちふさがった島野さんは、呆れた様子でいかがわしい溜め息を声に出す。

「待て待て。お前ら、話が飛躍してるぞ。よし、わかった。合コンに行かないなら俺らの昇格祝いでもやるか? 幹事は平に決まりだ」

「島野さんまでふざけないでくださいよ。非常事態だっていうのに、柏木が合コンのこと持ち出すから話がややこしくなったじゃんか!」

「だって、前から楽しみにしてたのは本当の事じゃない」

「脳天気な頭の作り、何とかした方がいいんじゃないのか、アホ!」