優しい胸に抱かれて

 依頼工程のどこかで、何かの手違いが起こった結果ならば、当然こちらには非がないはず。


「…お調子者だが徹底してるのは、発注書類のエクセルデータはパス付き。暗証番号がないと閲覧不可、管理は怠ってないと」

「ってことは紙面上?」

 穴が開くほど書面を眺めたところで、原因が解明できるわけもなく、数量は印字されていて手書きではないし、訂正印が押されているわけでもない。発注日は3月26日。

 どういうからくりなんだろうと、再び頭を傾げた。


 顔を斜めにしたことで島野さんの曖昧な顔が映る。目を細めた視線の先を無意識に追うと、作業服に着替えているものの結局出掛けなかったのか、佐々木さんが携帯電話片手に話しながら、トラックの運転手さんから伝票のサインを急かされているようだった。

 パレットに積まれたパネルは丁寧にビニールで梱包されていて、手際よく早々に荷物が下ろされ、それでなくても窮屈な倉庫一帯を占領してしまったことで、商品部の迷惑そうな視線が集う。


「一課長には俺から連絡入れるとして、一先ず様子見。ってとこかな?」

「呑気にすっとぼけるの巧いからな」

「島野さん、それ嫌味にしか聞こえない」

「当たり前だろ、最高の嫌味だ」

「せっかく精算しようとしたのに島野さんの邪魔が入った」

「何で俺だ。お前を店舗レンジャーの敵キャラに任命してやろうか?」

「俺、一応島野さんの味方のつもりだけど?」

 この雰囲気には相応しくない会話をする2人のことは無論放置して、平っちの隣へ歩み寄って声を掛けようとした時。


 隣で真っ青になる平っちから子機を取り上げた丹野さんが、場の流れを変えようと勇ましい声を上げた。

「平さんっ、なんとかなりますよ!」

「なんとか、…なるわけないじゃんか。特別に制作してもらった製品を返品できるか! 柏木のあとをただくっついてるだけの新人が、なんとかなるって何で言い切れるんだ!」

 啖呵を切る平っちから今にも飛び掛かりそうな形相で睨まれた挙げ句、辛辣な罵倒を浴びた彼女の励まそうと無理に作られた笑顔が、あっという間に蒸発して消えていく。