優しい胸に抱かれて


出入りの激しいお昼時。一人、二人出て行ったかと思えば、また一人、二人とやってくる店内。

『あー! この人よ。そうこの人!』

私の時と同じように指をさす。店に入ってきた相手は同期の軽いと噂されていた男だ。

『え?』

いきなり指されて、不思議そうに見下ろした。

『軽い男』

『…って、あんた誰?』

顔つきが変わって、明らかにむっとしている。初対面で軽い男と言われれば、その反応は正しいだろう。


『総務部の吉平です。一応、同期みたいよあんたと。よろしくねー』

『柏木がこんな失礼な女と友達だったとは…』

『あ、いや…』

そうじゃないと経緯を説明しようとした時、彼女が横やりを入れる。

『さっき会社の前で会っただけで、まだ友達じゃないわよ。会ったのも2回目だしね。でも、もう友達よね?』

『え…?』

『あれ、違う?』

『ううん、友達?』

『何だそれー、友達かどうか確かめなきゃわかんねーの? って、なんで俺が軽い男って話になってんの?』

『軽そうだから』

と、そこから平っちの合コン話を聞かされ、彼女は『やっぱり、軽い男じゃない。私の読みは強ち間違いじゃないって事ね』と、勝利を確信した顔をした。


『柏木さんの下の名前はなんていうの?』

『私は紗希』

『紗希って呼んでいい?』

『うん、いいよ。吉平さんは下の名前は?』

『私は絹って書いてしるくって読むの。でも、しるくちゃんって、何だかおかしいでしょ?』

『うん、確かに変だね。あんたはよっしーだね』

『えー、学生の頃と変わんないじゃないの』

『自分から言い出して文句かい』

『じゃあ、あんたは平っちね』

『げっ…』

『ああ、その様子はあんたも学生の頃、平っちって呼ばれてたんだ!』

『悪かったなー。社会人になってまで平っちはなくないか? せめて下の名前聞かない?』

『ほら、それが軽いって言うのよ。聞いてないのに、言おうとする? 聞いてないんだから言わなくていいわよ。自分でモテると思ってるんだろうけど、それ、勘違いだから』

『言うくらいいいじゃん。よっしーって、性格悪いって言われない?』

『性格悪いとは言われないけど、正論過ぎて言い返せないとはよく言われますけど?』

『うん、やっぱ性格悪い』

私は二人のテンポのいいやりとりを笑いながら可笑しそうに見ていた。