優しい胸に抱かれて

 島野さんが簡素に説明するすぐ側で、日下さんとは真逆の表情をさせている平っちが、ここまで親機からの受信が届きそうもない子機を握りしめて、わなわなと体を震わせている。

 平っちが関わっている案件なのだろう、急いで駆けつけてきたのが伺える。またその隣で、心配そうに丹野さんが平っちを見上げる姿があった


「旭川に滞在している一課長には知らせていないが、長島さんは工藤に委ねると。部長は好きにしろ、その代わり今週中に片付けろって」

「今週って、残り3日半か。状況がいまいち…」

 首を捻る彼にこればかりは同意したくなる。発注ミスだってことと、平っちが関係していることくらいしか読めないのだ。同じように顔を傾げる私の頭上で、島野さんの溜め息が混在する声が聞こえた。

「俺も把握しきれてないんだ」

 と、折り畳まれたプリント用紙を彼へと差し出す。風に煽られ両手で受け取ったことで、ようやく繋がれた手が自由になり、私にも見えるよう低い位置に腕を下ろす。


 ほんの数日前に平っちが手配した、サワイクラフトの新店舗、駅ビルの施工で使用される特注のスライディングウォール10枚。それが、100枚受発注され、1ヶ月先でいいはずの製品は、日付指定され本日届いた。

 本来ならば現場へ製品を納品するのだが、急遽荷受けは会社の倉庫に変更した模様。


 単価が3円となっている発注書を度々見る、テンキーのエンターキーと数字の3の押し間違いによるもの。どうやら今回は平明な単純なミスではないらしい。

 発注した数量は10、製作依頼したメーカーから来たFAXの見積書も10枚となっている。それが、どうなって桁が増えたのかわからないが、新たに届いたと納品書に添付された、こちら側の発注書の写しは間違いなく100枚となっていた。1組10万円の発注ミスはかなりの損失。

 とはいえ、こちらの発注書には平っちの印と一課長の畑山さんの判子が押印されていて、確認に確認を重ねている状況下で、いくら繁忙期といえどこんな初歩的なミスをするとは到底考えられない。