優しい胸に抱かれて

 仕事にならないって言うなら、こんなの渡さないで欲しい。

 心臓が早鐘となってどくん、どくんと隆起と沈降を繰り返す。息が詰まるように胸が締め付けられる。
 
 
 手にした重みのある封筒へ力を込めたのと同時に、噛み締めた唇にも力が入ると、僅かに鉄の味がした。勢いづいて立ち上がり、会計をし店を出ていこうとする背中を追いかける。


「部長っ、どうしてこんなもの…」

「インテリアデザイナーはお前が目指していたものだ。工藤が設計した店舗にお前が設計したインテリア…。思い描いたことだったんじゃないのか? 願いが叶って喜ぶならわかるが、これ以上辛気臭い面見せるな、煙草を吸いたくなるだろ。前にお前とここへ来た日が最後、それ以来吸ってないんだ。禁煙に少しは協力しろ」

 そう思い描いていた。だからこそこれは願いが叶ったとは言わない。

 振り向いて冷たく一瞥し、理不尽な台詞を繋いだ部長は鼻を鳴らす。

「お前が逃げ出すことに気づかないとでも思ったか? ここで工藤が戻ってくると報告した時点でそんなものはお見通しだ。店舗デザイン事業部で唯一のインテリアデザイナーだ、決定したのは1ヶ月半前。わざわざお前が逃げ出すタイミングに合わせてやったんだ、滑稽だろ?」

 にやっと口元だけで笑い「もっと足掻け。足掻き足りないんじゃないのか?」と、低い声を落とし、背を向けスマートに歩いていく。

 
 遠ざかるその背中を2度と呼び止めることはしなかった。数週間前の悔しさがふつふつと蘇る。


[なぽり]の店内へ戻り、名刺ケースの横へ封筒を置く。カップに残ったコーヒーを一気に喉へと流し入れる。冷め切ったコーヒーだけじゃ潤うことなく、水へと手を伸ばす。
 

 テーブルに置いた真っ白な封筒。受取先は部長宛、発送元は兵庫県神戸市の住所、差出人は工藤紘平。

 ばっとすぐさま裏返しに戻す。じっくり穴が空くほど見たわけじゃない。見流す程度だった。これは見てはいけないものだ。

 視界から取り払うかのように鞄へと押し込んだ。それを見込んで鞄を持参させたのかと考えると、悔しさを通り越し賞賛してしまうほど。