優しい胸に抱かれて

 それ以上聞き出せない雰囲気を作られ、意識は自分の最後は部長でなければ誰が決めるのだろうと。

 ジャケットの内ポケットへと手を忍ばせ、覗かせた白い封筒は私が書いた退職届。私がそれを目視したのを確認すると、ポケットの奥へと押しやった。

「こいつは島野に預ける」

 あっ。と、開いた口から空気が漏れる。島野さんへ預けたら破り捨てられてしまうのは火を見るより明らかだ。

「とは言っても、就業規則では予告期間を定めていない。この効力は退職の意思表示から2週間後に自動的に受理される」

「…ということは」

 2週間、耐えればいいってことだ。

 
 揺れる程度、甘く頷いた私へ向けた表情は、口元は笑みを含ませているが、心理を見抜いた挑むような視線に、憎らしさが溢れそうになる。

「これはお前にやる、捨てるなり、シュレッダーにかけるなり、好きにしろ」

 そう言って鞄から厚みのある白い封筒を抜き、差し出される。

 なんだろう。と、部長が封筒から出した用紙へ焦点を預ける。

 それは誰かが設計し発案した数十店舗のパース図、完成予想図だった。部長の手によってぱらぱらと雑にめくった先に、見知ったインテリアがいくつかあった。ある店舗でしか使用されていない特注のテーブル、椅子。ラックやランプ、小物。どれも私が発案したインテリアだった。

「誰のですか? 部長の…?」

「俺がそんな粋なことすると思ってるのか?」

「えっと。…じゃあ、島野さん?」

 これは、去年商品化したテーブルだ。でも、島野さんは店舗で使えそうもないものばっか考えやがってと言っていた。

 このテーブル、こんな使い方も出来るんだ。と、イメージとは異なる方法で使用されていて、感心するものばかりだった。


「俺にはそんなことする奴は1人しか思い当たらないがな。もう昼か、ちょうどいい、奢ってやるからこのままここにいろ。どうせ、戻ったって仕事にならないだろ。俺はこれで帰社するから後は好きにしろ」


 離れていく後ろ姿にハッと胸の奥で何かを感じ、ご丁寧に裏返しにされていた封筒を表に返す。