ここへ来て繰り返す、部長の溜め息は5回目だ。口から息をゆっくりと吐き、擦り合わせていた両手を解放させたのち、ポケットから何かを取り出した。
「お前みたいな厄介な奴を抱え込まなければいけないとは、総務部に同情したくなるな。いくら総務部でも、手に余るだろ」
皮肉めいた言葉を発し、白い箱のようなものをテーブル上に置くや否や、指で弾き滑らせる。私の前に到着した四角い物体は名刺入れのケースだった。それへと視線を落とす。透明のフィルムから覗くのは私の名前が印字してある。
間違いなく私の名前だ。管理係長兼、その後に続く用語に目を見張る。何かの間違いかもしれないと、一度逸らしてみても再度映し出す文字を凝視する。
「…インテリア、デザイナー」
思わず口に出さずにはいられない。獲得したかったはずの称号が確かに印字されている。
なぜこのタイミングなのだろう。テーブルの下でぎゅっと握った拳に力が入る。
「辞めたい理由は何だ? 理由くらいは聞いてやる」
部長のことだ、解っているくせに聞いてくるあたり、裏があるんじゃないかと内心警戒する。
理由なんて知らない方がいいと言っておきながら、物事には理由ってものがあるんだと、矛盾を突きつけたのは誰でもない部長だ。理由は一つだけじゃない、溶けた飴玉同士が絡みつくみたいに、一つのことで幾重にもまとわりついてくる。
この名刺の前にして、理由はあってないようなものになってしまった。今すぐにでも辞めたいという思いが殊更強くなる。
「理由は…、ありません」
「ったく、お前は。ありませんは理由ではない、黙秘だ。言いたくないと言っているようなもんだ。もうちょっとマシなこと言えないのか。せめて、納得できるくらいの言い訳を考えろ」
「部長には、解りません」
臆することなく、常に余裕だ。部下を動かすのだって手玉に取るみたいに自由自在だ。そんな部長には私の気持ちなんて理解できなくて当然だ。
「お前みたいな厄介な奴を抱え込まなければいけないとは、総務部に同情したくなるな。いくら総務部でも、手に余るだろ」
皮肉めいた言葉を発し、白い箱のようなものをテーブル上に置くや否や、指で弾き滑らせる。私の前に到着した四角い物体は名刺入れのケースだった。それへと視線を落とす。透明のフィルムから覗くのは私の名前が印字してある。
間違いなく私の名前だ。管理係長兼、その後に続く用語に目を見張る。何かの間違いかもしれないと、一度逸らしてみても再度映し出す文字を凝視する。
「…インテリア、デザイナー」
思わず口に出さずにはいられない。獲得したかったはずの称号が確かに印字されている。
なぜこのタイミングなのだろう。テーブルの下でぎゅっと握った拳に力が入る。
「辞めたい理由は何だ? 理由くらいは聞いてやる」
部長のことだ、解っているくせに聞いてくるあたり、裏があるんじゃないかと内心警戒する。
理由なんて知らない方がいいと言っておきながら、物事には理由ってものがあるんだと、矛盾を突きつけたのは誰でもない部長だ。理由は一つだけじゃない、溶けた飴玉同士が絡みつくみたいに、一つのことで幾重にもまとわりついてくる。
この名刺の前にして、理由はあってないようなものになってしまった。今すぐにでも辞めたいという思いが殊更強くなる。
「理由は…、ありません」
「ったく、お前は。ありませんは理由ではない、黙秘だ。言いたくないと言っているようなもんだ。もうちょっとマシなこと言えないのか。せめて、納得できるくらいの言い訳を考えろ」
「部長には、解りません」
臆することなく、常に余裕だ。部下を動かすのだって手玉に取るみたいに自由自在だ。そんな部長には私の気持ちなんて理解できなくて当然だ。



