置かれたコースターは昨日マスターに渡したもので、早速使ってくれている。
ステンレスのお盆を胸に抱え、愛嬌よく頬に気色を浮かべるさゆりちゃんを、部長はテーブルに肘を付き手を組んで見上げてる。その表情は私には絶対に見せないような微笑みを、口元辺りに描いていた。
獣医学部のさゆりちゃんは悩ましい顔をし、就活せず大学院進学を考えている。それが、逃げの姿勢みたいで、いつまでも親に甘えてばかりもいられないから嫌だと漏らす。
「臨床獣医師になりたいんです。なりたいってだけで、獣医師になってどうしたいのかはっきりしてないんですよね」
さゆりちゃんはそう言うが、しっかりとした自分の考えを持っているように見える。私とは違う、目的があって獣医師としてのキャリアを目指そうとしている。
「何かを始めるのに遅すぎるなんてことはない。今からでも出来ることはたくさんある。特にさゆりちゃんはまだ若いんだ、どうしたいのかはあとから着いて来るもんだよ。その持ち前の明るさやソフトスキルはこの先どこかで必ず役に立つ。物言えぬ動物相手でも通じるよ」
「そうですかね? 脳天気としか言われないんですよ」
「脳天気か、こいつじゃあるまいし。俺みたいに年取ったら、無意識に本音と建前を使い分けてだな、やりたいことがあったって色んなものが邪魔してくれる。仕事だったり、家族だったり、面子だったり」
こいつ、と顎をしゃくりあげ対面に座る私を指す。
本音と建て前って。どこでどう使い分けているのか、指導されているみたいだ。さゆりちゃん相手だと、口調ですら背中をさするように優しい言い方をしていた。
目の前で広げられるやりとりを、何とも珍奇なものでも見る目つきで2人を傍観する。
「えぇ? 何だか怖いですね、大人って」
「それだけ大事なものが増えていくってことなんだ。自分なりに色んなことを探して経験して、自分ってものを見つけて大事なものに気づけるんだよ。さゆりちゃんもそのうち解るよ。…仕事の邪魔してしまったな」
ステンレスのお盆を胸に抱え、愛嬌よく頬に気色を浮かべるさゆりちゃんを、部長はテーブルに肘を付き手を組んで見上げてる。その表情は私には絶対に見せないような微笑みを、口元辺りに描いていた。
獣医学部のさゆりちゃんは悩ましい顔をし、就活せず大学院進学を考えている。それが、逃げの姿勢みたいで、いつまでも親に甘えてばかりもいられないから嫌だと漏らす。
「臨床獣医師になりたいんです。なりたいってだけで、獣医師になってどうしたいのかはっきりしてないんですよね」
さゆりちゃんはそう言うが、しっかりとした自分の考えを持っているように見える。私とは違う、目的があって獣医師としてのキャリアを目指そうとしている。
「何かを始めるのに遅すぎるなんてことはない。今からでも出来ることはたくさんある。特にさゆりちゃんはまだ若いんだ、どうしたいのかはあとから着いて来るもんだよ。その持ち前の明るさやソフトスキルはこの先どこかで必ず役に立つ。物言えぬ動物相手でも通じるよ」
「そうですかね? 脳天気としか言われないんですよ」
「脳天気か、こいつじゃあるまいし。俺みたいに年取ったら、無意識に本音と建前を使い分けてだな、やりたいことがあったって色んなものが邪魔してくれる。仕事だったり、家族だったり、面子だったり」
こいつ、と顎をしゃくりあげ対面に座る私を指す。
本音と建て前って。どこでどう使い分けているのか、指導されているみたいだ。さゆりちゃん相手だと、口調ですら背中をさするように優しい言い方をしていた。
目の前で広げられるやりとりを、何とも珍奇なものでも見る目つきで2人を傍観する。
「えぇ? 何だか怖いですね、大人って」
「それだけ大事なものが増えていくってことなんだ。自分なりに色んなことを探して経験して、自分ってものを見つけて大事なものに気づけるんだよ。さゆりちゃんもそのうち解るよ。…仕事の邪魔してしまったな」



