優しい胸に抱かれて


『さあさあ、時間が勿体ない。うちは店舗さんと違って、タイムカードなの。お昼は12時から13時って決まってるんだから、早く早く!』

『う、うん…』

圧倒されたと言っていいだろう。

入社してから彼女とは喋ったことがないのに。こうも簡単に、お昼の時間を共有できるものなんだ。率直にそう思った。

『そういえば、店舗さんに同期がもう一人いたわよね?』

『平くんのこと?』

『名前は知らないけど、そうなのかな。あの人、絶対軽いわよね?』

『…なんで?』

『あの顔を見ればわかるわよ。モテるって思いこんでるでしょ? 大したことないのに』

平然と、悪びれる様子もなくズケズケと人のことを言っちゃうんだ。でも、その毒舌はさっぱりとしていて、嫌味っぽくなくて。聞いてて気持ちがいい。

『軽いかどうかはわからないけど、合コンは好きみたい』

『やーっぱり。モテてる自分に酔ってんの、あれは』

『…週明け自慢してる。合コンがうまく行った時は特に』

『ほらね』

歩きながら、割と大きな声で会話を繰り広げる。入社してから本当に笑ったことがなかったから、学生の頃に戻ったみたいで楽しかった。決して、褒められた話ではない、なんていっても人の悪口とも取れる発言。会話の内容は別としても。

人と楽しく話す、久し振り過ぎて笑い方を忘れてしまっていた私は、彼女の隣で上手に笑えているのだろうか。

『いつも私はここの大衆食堂なんだよね、どうする?』

『えっと、…この先に、美味しい洋食屋さんがあるの知ってる?』

大衆食堂の前で立ち止まる彼女に、私は[なぽり]を勧めたくなった。