優しい胸に抱かれて

 行ったり来たりを何度も繰り返し、あらかた移動が終わって次は整理整頓という時。


「あ、そうだ、そうだ。部長に頼まれてたんだった、忘れるところだった」

 人に荷物移動をさせ、俺の0.9ミリのシャープペンがない。と、引き出しを荒らしていた島野さんは、思い出したかのように図面を取り出し渡してきた。

「柏木。商品部にこれ出して来てくれ」

 シャープが見つからないのを口実に、面倒なことを押しつけられそうになっている。それも、元を辿れば部長っていうのが厄介だ。


「え…」

「何だ? 不満か?」

「…部長みたいなこと言わないでくださいっ。わかりました、行きます。誰宛ですか?」

「企画課の野村、渡せば分かる」

「…このチェアって」

 溜め息を漏らし受け取った図面に目を落とす。見覚えがあるデザインチェアの寸法やら材質、立体図が書かれていた。


「前回の会議で通ったんだと。またお前の企画が商品化だ、賞状は部長から貰え。インテリア事業部でも作る気か?」

「インテリア事業部って…、からかわないでください」

「とかなんとか言って、照れるな、照れるな。ショールームに置かれるのは来月だと。お前は店舗で使えないものばかり考えるからな、使えそうなものだったら勧めてやらないことはないが、せいぜいカフェだな」

「照れてません! だけど…、座面のカバーはパッチワークじゃなく革張りだったら店舗でもいけそうですね」

「何だ、本気で興そうとしてるのか、インテリア事業部。退職が遠退くなあ…」

「…行ってきます」

 してやったりと目元を緩めた島野さんに嵌められたのか、いなくても存在しているかのような部長なのか、こうなるとどうでもよくなる。


 自分で出した企画の図面を、まさか自分で届けることになるなんて、からかわれることよりも気恥ずかしい。

 商品部企画課の事務所は総務部のお隣。真っ青なパーティションが迷路のように張り巡られ、うちとは違って、お腹が鳴ったら近くの人にまで聞こえてしまいそうな、しーんとした静かなフロア。静かってだけで緊張してしまう。