優しい胸に抱かれて

 旭川出張組は日曜日に無事プレオープンを迎え、手直しがないかの確認のために施工の若手数名を残し、長島さんと佐々木さんは役目を終えて戻ってきていた。

 朝礼に部長は姿を見せず、代わりに輪の真ん中にいた長島さんに、島野さんの不審そうな声が上がる。

「あれ? 前川部長はどうしたんですか?」

「今日は私用で休み。2日までまだあるが、もう島野が課長でいいぞ、とのことだ」

「は?」

「しばらくの間、いないことが多いだろうから、好きにやれとのことだ」

「いない? なんとまあ、珍しい。しかし、相変わらず組織のルール無視して反発する人だな」

「元々この部署に、コンプライアンスなんかねぇだろ。誰が課長だろうが関係ねぇし…」


 次の日曜日には旭川のショッピングモールはグランドオープンを迎える。何かあったら駆けつけなければいけなくなるから今のうちにと、それぞれ就任する4月2日までは数日あるが、長島さんが島野さんへ、島野さんが日下さんへ席を明け渡す。朝から席替えに勤しんでいる事務所。


 朝礼後、長島さんに呼ばれ、私用で休んだ部長からの命令が発動された。不在にも関わらず何がしたいのか。

「総務部からみんなの新しい名刺が届いているから、配っておけとのことだ」

 部長のデスク上に置かれていた箱を抱え、名刺を渡し歩く。


「島野さん、日下さん、佐々木さんも。新しい名刺置いておきますね」

 作業場を入って一番奥が島野さんの席。その隣が日下さん。日下さんの向かいが私で、島野さんの真向かいで私の隣が佐々木さんの席。それぞれの席に名刺が入ったのケースを置いた。

「何で、俺が柏木の隣なんだ?」

「いや、それ言うなら何で俺は向かいなんだよ?」

「…私だって不満ですっ」

「うるせえ! 何で、お前が不満なんだ? こら」

「痛っ…」

 出張でいなかった佐々木さんに、耳を引っ張られるのは約半月ぶりで、久しぶりに与えられた痛みは、こんなに痛かったっけと頭の中で疑問を投げた。