優しい胸に抱かれて


特別、引っ込み思案な性格だと自分では思っていなかった。

学生の頃はバイトだってしていたから、仕事の大変さはわかっているつもりだった。

つもりだっただけで、新入社員というものも、責任も、何一つ「働く」というものがわかっていなかった。


私は芸術学科出だ。芸術学科といっても、美術以外にメディアデザイン、服飾美術、インテリア建築、舞台芸術の5分野を学んでいたとはいえ、建築はかじった程度。みんなみたいに建築専門の大学を出ていない。

それを勿体ないと感じたことは今までなかった。まして、建築士を目指していた彼から羨まれるなんて思いもしなかった。


「仕事」がわからないまま1ヶ月が経って、わかろうとしようとしても気後れが先に立つ。わからなくなったら急に、人と話すことにひるんで出来なくなった。話せば話すほど、怖くなった。

一人でいる時間が一番の休息だった。

どうしたらいいのか、考えて悩んでも答えを見いだせなかった。泣かずに歯を食いしばっているのも限界だった。気持ちに余裕なんて全く存在していなかった。

もう、逃げだそう。泣いても解決しないのだから、泣くのは会社を辞めてから思う存分泣こうと。辞めようと決意した時だった。


だけど、私は辞めるのを辞めた。

もう少し、頑張ってみようって思えたから。



どうして、わかったんだろう。逃げだそうとしていたことが。


どうして、わかったんだろう。

あの日、机の引き出しに忍ばせていた退職届を出そうとしていたことが。


『いつも一人で食べてて寂しくないのかと、見てたから』

単純だから簡単に見透かされたのだろうか。


みんなとは違う角度から指示されたそれは、まさしく可能性を導く光を照らされた。