優しい胸に抱かれて

 平っちの手に渡った透明な袋は中身を覗かなくても、平っちが好きなチョコレート。全部食べるとすれば虫歯になるだろう、そのくらいぎっしり詰められている。

「こんなに! マジで、うわー、工藤さん。俺、北見でもどこでも無音でも運転しますよ」

 目を輝かせているだろう平っちの声のトーンが明らかに変わる。眉を寄せている私は茅の外で、爪先を視界に入れっぱなしの頭の上から振り落ちた会話。


「助手席より俺は運転専門だな。そのおやつ、紗希にも食べさせてやって」

 名前を紡がれ顔を上げると、フロアへと急ぐ後ろ姿が遠くにあった。隣では大声でその小さくなる姿に返事をする。

「はいはーい。お安いご用で」


 平っちがいるのに、名前を呼んだ彼はこの場に残り香を置いて行った。
 

「どれがいい、3つまで選んでいいぜ。これなんか柏木好きじゃん?」

「…私はいいよ、平っちにくれたんだから」

「マジ? あー…、でも、あとで怒られるのやだからやるよ」

 ほら。と、苺と抹茶、さくらんぼ味のチョコの箱を私の手に持たせる。カラフルな色合いのチョコレートだけを押しつけられたような気がするし、チョコ好きの平っちが口にしない味のチョイスといい。私が素直に受け取るとも思っていないだろうし。

 
 何、考えているんだろう。ほんと、馬鹿なのかな。と、吐き出したい心の声。


「ありがと。でも、多分、…怒らないよ」

 
 作業場で平っちと別れた先には、日下さんの気だるそうな姿があった。本当に仕事が好きで、仕事にしか興味がないかどうかはわからないが。日曜日はきちんと帰ったらしく、綺麗に仕立てられ疲れを感じさせないスーツ姿で出社していた。


 デスクマットに挟んであった付箋がなくなった代わりに、ガラスプレートには新しい仲間が加わっていた。いつのまにこれを。と、それを手にして、急ぎ足の姿を思い浮かべ、たった今かもしれないと思った。

「何これ…」

 犬、らしいが、どうみても柴犬にしか見えない。毛の長いポメラニアンじゃなかったけ。と、パッケージの写真を思い起こす。犬種が変わってしまっているからか、出来映えを気にする付箋はなかった。


 あの毛がもこもこした羊はどうなるんだろう。