指輪をもらってから2ヶ月が経った、寒さが残る3月半ば。
いつもと変わらない週末を過ごし、遅く目覚めた日曜日。朝食兼昼食にお互いが作ったものを食べた後、夕飯は何にしようかなんて話をしながら、彼の腕の中でだらだらしていた。
何ら普段と変わらない休日を過ごしていた。
それは、私だけじゃなく彼も同じだった。
ソファーで寄り添う私の頭を撫でながら、彼はこう言った。
『4月から神戸に出向が決まった。いつ戻れるかわからない』
がつんと頭を殴られたような衝撃的な台詞に、驚いて身を起こす。
淋しそうな表情を見せた彼は、私が『待ってる』と、口を開くよりも話を続けた。
『別れよう』
迷いのない真っ直ぐな瞳で、はっきりとそう言った。
聞き間違いや言い間違いじゃない。確かな言葉だった。
どうして、そんなこと言うの。どうして、だって、この指輪をプレゼントされた時は…。
頭の中で疑問と困惑がぐるぐる渦を巻いて、鈍い痛みが心の悲しみを襲う。
あまりの突然のことに口を開けたものの、からからに乾いた喉の奥はくっついて言葉が紡げなかった。
うまく呼吸ができなくて、喉は張り付いたように動いてくれない中、それでもようやく振り絞って伝える。
『待ってる』
彼の腕を掴もうと伸ばした両手が、途中で止まる。視界に映り込んだ薬指の指輪が霞んでいた。
『待たなくていい、別れよう』
繋ぎ止めたかった想いは、冷たい一言で跡形もなく消滅した。しっかりとした芯のある言葉が落とされた。
待つことさえ許されない言葉に、私はどんな顔をすればいいかわからなかった。
おそらく、ひどく悲しくて、今にも泣きそうな顔をしているはずだった。
真っ直ぐ突き刺さる視線は、まるで理由すら教えてくれないと言わんばかりの真剣で冷ややかなもので、返事は『わかった』以外に受け入れないと訴えた瞳だった。
全身が小刻みに震えて、自分の身に何が起きたのかわからなかった。



