ここ最近、こんな彼の笑顔を見れなかったからか、心底ほっとした瞬間だった。
本当に、仕事で苦悩があったからなんだ。優しい彼のことだ、心配かけないように配慮してくれてただけだったんだ。単純な思考はすぐに納得していた。
『ほら、冷めちゃうぞ?』
頷いて、スプーンを口に運ぶ。[なぽり]のケチャップベースのソースが口いっぱいに広がっていった。
『厨房で何してたの?』
『内緒』
と、意味ありげな笑みを口元に作り、もたもた食べる私と違ってペースよくナポリタンを食す。
2つのお皿が空になって、食後のコーヒーと一緒に運ばれてきたお皿に目を奪われる。
パンケーキが数枚重なって、生クリームとカラフルな果物でデコレーションされていた。重みで傾いたパンケーキの一番上にはチョコレートで書かれた『おめでとう』の文字。
『紗希? 誕生日おめでとう』
『へ?』
髪の毛をくしゃりと触り照れ笑いを浮かべる彼は、私の間抜けな様子に声を出して笑った。
『へ? って。自分の誕生日、忘れてた?』
スマホで日付を確認しなくても、会社で記入した報告書の日付は紛れもなく私の誕生日だったことを思い出す。自分の誕生日を忘れてしまうくらい、私は彼のことを考えて気にし過ぎていた。
『忘れてた…』
『やっぱり。そういうとこ、紗希らしいけど』
『こ、これ…、紘平が作ったの?』
『本格的なケーキは作れそうにもなかったから、パンケーキならいけそうな気がしたからマスターに協力してもらったんだ。さゆりちゃんも手伝うって残ってくれてさ。不格好だけど、味は保証するよ』
その台詞にカウンターに目をやるとマスターとさゆりちゃんが微笑んでいた。
傾きかかった彼が作ってくれたパンケーキは、贅沢にも様々な果物をふんだんに使い、ほんのりしょっぱくて、とろけるくらい甘くて、気にし過ぎて損した気分になった。
結局、2人では食べきれなくて、食べるのもさゆりちゃんに手伝ってもらった。綺麗になったお皿に、せっかく腕を振るってくれたんだから写真撮っておけばよかったと、心残りした私はまた作ってくれるようお願いをした。



