昼間でも氷点下の気温が続き、冷え込んだ1月。
夕方遅くに出先から戻り、暖房の効いた作業場に入った途端、寒暖差で鼻水が出そうになって上を向いていた。席に着きティッシュを手に顔が下を向いた時、キーボードの下にピンクの付箋が挟まっていた。
『なぽりで待ってるから一緒に帰ろう』
すでに[なぽり]で待っているのか、平日なのにもう仕事を終えたのか。彼の姿は探しても見あたらなくて、その付箋はメモ帳に張り付けた。
プランニングの内容を書き起こし、キリのいいところでこの日の仕事を終えた私は、彼が待っているであろう[なぽり]へと向かった。
『紘平?…何、してるの?』
カウンターの奥でエプロンを纏った彼の姿に驚いて、二度見した。厨房で腕まくりしてどうしたのか。
『何って、…バイト?』
はにかんでそう答えた彼の手にはターナーが握られていた。マスターとさゆりちゃんも笑っていた。
『バイト…?』
聞き返す私の背中を押すさゆりちゃんに、いつもの定位置の席へと促された。席には彼の鞄とジャケットが置かれていて、おもむろに腰を下ろす。
照明は普段より落としているのか、違和感だらけの薄暗い店内の様子に少しも落ち着かない。
何度か立ち上がって様子を伺おうと試みるが、さゆりちゃんに『見ちゃダメですよ』と、何度か注意を受けた。
そわそわ待つこと数分後、マスター特製のナポリタンとオムライスが運ばれてきて、エプロンを外した彼も笑顔で登場し『さ、食べよ?』なんて、何でもなかったかのようにスプーンを手渡しするから、思わず怪訝そうに見入ってしまった。
『うん、美味い』
ナポリタンを頬張り、子供みたいに顔をくしゃくしゃにして笑った。



