12月に入り、封印していた旅の情報誌を引っ張り出していた。この年、訪れた場所の印が増えず、灯台には行けなかった。
『映画、観に行きたい』
話しかけたつもりだったが聞いていなかったのか、彼の焦点はどこにもピントは合っていなかった。
『どうしたの…?』
この頃から、彼は考え込むというかぼうっとすることが増えたような気がしていた。
『ごめん、ちょっと仕事のこと考えてた。レストランバーの…、いや。仕事の話はやめよう』
交際している私たちは一緒に仕事を共有することが減った。互いに別の店舗を造っていて、動きも時間もバラバラだった。
お互いの仕事の情報は共有しきれていないのはもちろん。レストランバーの案件内容は知らなかった。
何か問いかけても上の空で、時には物淋しそうに眉尻を下げ私を見つめることがあった。聞いても、今みたいに仕事のことを考えてたって答えるだけだった。
プライベートの時間に一緒にいて、仕事のことを考えることは珍しいことだった。たまに、会社でプライベートな一面をおちゃらけてみせることはあっても、きちんと仕事は仕事、プライベートはプライベート。メリハリをつけていた。
それだけ、苦難の案件なのだろうと、どんな内容なのか聞いても謝罪を述べるだけで教えてくれなかった。
『仕事の話してごめんな?』
私の眉間に口付けして、誤魔化すように身体を抱き寄せる。抱きしめられて広い胸の中で彼の香りに包まれてしまえば、何も言えなくなってまんまと誘われるかのように顔を埋める。
それが一層、淋しく感じた。この淋しさは、いつまで我慢すればいいのかわからなくなった。
しつこいと煙たがられる。重たいと思われる。好きだから、悩む。
窓の外でちらつく雪のように、ちらちらと綾子さんの顔が浮かぶ。
彼の部屋に初めて連れてきてもらった時のことを、考えてしまう。
−−−−−
こうして、1人で悩むのは私の悪い癖だった。
誰かに聞いてもらえば、綾子さんみたいにすっきりしたのかもしれない。ただ、本当にすっきりするのかは甚だ疑問だった。
自分の考えがあって、誰かに何か言われて、そうかもしれないって思うことがあっても、それを素直に受け止められるほど、器用に物事考えられるだろうか。
きっと、私の邪魔したくないって想いは押しつけがましかったのかもしれない。



