優しい胸に抱かれて

 ぼさっと薄くなっていく思考を振り切るかのように、頭を左右に何度か振って、口を開く。

「…あれ? 旭川のショッピングモールもそんな感じでしたよね?」

 他の入店予定の店舗もまとめて請ける。一つの場所にみんなが固まって臨機応変に動け、対応しやすい相乗効果が上がる。うちの会社は設計だけじゃなく施工もできる、コストに融通が利く自社製品以外に、オリジナル製品を造れるからやりやすい。

「頭は使わないと腐る」

 ここだ。と、やはり後頭部を指した島野さんに、分かり易く日下さんの解説がくっついてきた。

「要するに、こっちから仕掛けなきゃ依頼は待ってても来ねぇってこと」

「柏木だって昨日、サワイクラフトとニットカフェに仕掛けただろ? それと同じだ」

「あれは…、あの2人が…」

 あの2人があの場にいたからできたことで、偶然の産物みたいなものだ。

「お前の情報がなければ成し得なかったことだ。情報があるから動ける、その情報はしょうもないように見える茶飲み話からだ。その情報を丁寧に報告書に起こして、こうしてファイルに綴ってあるからクライアントが何を望んでるか俺らは足を運ばなくとも理解しようとする。信頼して任せられる」

 手にした書類を適当に広げられたファイルの上に、バサッと音を鳴らし置いた。

 今日の島野さんは本当におかしい。それとも私がおかしいのか。いつもと違う真面目さに居心地が悪く、胸の内を読まれているみたいで落ち着かない。

「島野さん…、どうしたんですか?」

 声が掠れたは暖房のせいではなかった。

 向かいの席からパサパサと数枚のパース図が、パソコンのディスプレイに沿って落ちてくる。

「これは林が描いたニットカフェのパース図だ。お前のイメージ通りだろ? お前のイメージってことはクライアントのイメージってことにもなる。これはイートアップのパース図だ。壁紙はモスグリーンだが主張することなく、お前が企画したインテリア、お前が設計したテーブルが馴染んでいる。…たまには褒めてやっているんだ。鈍さで頭が腐ってんのか?」
 
 一向に目を合わせようとしない島野さんは、書類に目を向けたまま自分の頭を指で叩く。