優しい胸に抱かれて

 何度も見たことのある癖のない字で書かれた付箋を、メモ帳の中表紙に貼り、ディスプレイ台に小物入れとして置いてある小さな掌サイズのガラスプレート。二つあるうちの何も乗せていないスモークブルーの方にそっと雪の結晶を乗せる。

 もう一つのアンバーカラーのガラスプレートに乗っかった付箋の束と、ペンスタンドから鉛筆を取り[下手]と、書いて手を止めた。

 鉛筆を一旦置いて、使い切ったメモ帳に手が伸びる。それでなくても分厚いメモ帳は、気に入ったインテリアの写真以外に、ところどころに貼られた付箋で厚さが増していた。

 時折、こんな風に机の端っこに付箋が貼られていて、目的のないやり取りだったり、相手を思いやるような気遣いだったり。その時々にもらった付箋といい、マグネットのブックマーカーといい。[どういたしまして]と、返ってきたカードといい。

 何でもかんでも詰め込まれたこのメモ帳ごと、捨ててしまおうと何度も思って、実際何度かゴミ箱に捨てたことがあった。それも本気じゃないから、生ゴミと一緒にしてしまえば二度と拾わないのに、わざわざゴミ箱の中身を綺麗にして捨てたりするから質が悪い。

 捨てて、拾ってを繰り返して結局、まだ手元にあって、それをやっと使い切ったのだ。いよいよ、捨てる時がきたというのに、踏ん切りつかないで、この期に及んでまだ躊躇っている。

 春とはいえ、まだ未練がましく冬の気配が残るこの季節みたいに、思い切りがなくどうしようもないくらい往生際が悪い。

  
[下手。最初にしては上出来]そう続きをさっと書き入れ、書いたからといって渡せるわけがなく、行き場を無くした付箋はデスクマットの間で待機させた。