優しい胸に抱かれて

 じろりと睨んだ末「てめえのせいでまたどやされただろ」と、数が数えられなかったからなのか、はたまた色の感覚がなかったからか。わからなくて電話をしたのは島野さんなのにやつあたりもいいとこだ。

「…すみません」

 渋々謝り、私も漸く席に着く。デスクにはやりかけなのか、断念したのか分からない描き掛けの内観パースが数枚並んでいた。中途半端なパース図でもCGで描かれたそれは、その人[らしさ]が伝わってくる。

 出向先でどんな試練があったかはわからないが、腕を上げたようで、以前の大胆で粗っぽさはあるものの、柔らかさが加わっていた。

「日下さんらしい…」

 まだ席が与えられていない日下さんは、席がないことをいいことに手当たり次第、みんなの机の上にデザイン画やパース図をとっちらかしていた。

 散らばった印刷物を集め、最後の一枚を重ね両手でトントンと机の上で均す。紙の縁を叩いていた手が思いがけず止まり、デスクマットの上に転がっている物に右手が伸びる。

 なんだろうと眉を寄せ取ったそれは、水色のレース糸で編まれた歪んだ何かが置かれていた。恐らく雪の結晶なのだろうが、ぐちゃっとなってて原型が分からない。

 でも、確か昨日購入していたのはピンクのタティングレースのセットだったはずだ。

 パース図を一旦隅に置き、その雪の結晶らしきものを手に乗せる。

「下手…」

 独り言を呟き目に入り込んできたのは、結晶のタティングレースがあった場所。そこには付箋が貼られていた。


[打ち合わせの最中、貰ったキッドで教わりながらやってみたけど、出来はどう?]

 整った字並びでそう書かれていた。