優しい胸に抱かれて


金曜の夜はどちらかの仕事が終わるのを[なぽり]で待った。彼が泊まり込みでデザインを仕上げる時は、私は待たずに帰った。そんな週末を穴埋めするかのように、お互いが平日でも早く上がれそうな日の夜は一緒に過ごした。

1月、私の誕生日が平日だったのを考えて、それまでに抱えていた仕事を終わらせ、時間を作ってくれた。いかにも高そうな夜景が望めるレストランや、有名なデートスポット。色々と考えてくれていたのを全て断って、その日のディナーは[なぽり]のナポリタンにしてもらった。

『紗希。実はプレゼント、もう一つあるんだ。プレゼントっていうか…』

テーブルの上にすっと出されたのは、彼の部屋の合鍵だった。

『紗希に持っててもらいたいんだ。いつも待っててもらって結局、そのまま1人で帰すこともあるだろ? できれば俺の部屋で待っててくれると、…嬉しいなあって。これは俺の我儘』

合鍵を預けてもらえたこと、言われた言葉にも嬉しくて、渡された合鍵はリボンを付けて自分の部屋の鍵と一緒にキーホルダーに付けた。

合鍵を使う機会がなく、使いたい一心でエレベーターを降りたら駆け足でドアの前まで行き、鍵を開けた。それ以来、彼の部屋のドアを開けるのは私の役目になっていった。


冬は出掛けようにも何処へ行っても雪しかなく、暖房の行き届いた室内で私の勉強に付き合ってくれた。

インテリア選び、提案、アドバイスをするインテリアコーディネーターの資格とは種類の違う、インテリアの企画、設計、管理を行うインテリアプランナーの勉強を少しずつしていった。

その合間に、雪が解けたら何処に行こうかと持ち出され、お出かけプランを立てた。旅の情報誌に訪れた場所に印を付けて、行きたい所のページを三角に折った。

フェリーに乗りたいし、函館に根室も行ってみたい。折り目だらけの情報誌を見せた。

『こんなにたくさん行きたい所ある…』

『あはは、ゆっくりな? 楽しいことを一気に味わっちゃうと、この先楽しみなくなっちゃうだろ?』

『だから、ゆっくりって…? 2人でいられるなら何でも楽しい』

ゆっくり、そう言い聞かせるように何度も口にしていたんだ。

『ゆっくり』と、言い合い笑って頷いた。


雪解けに関係なく、毎年3月30日には本村さんのカフェに一緒に行こう。そう約束した。