『えっと…、嫌じゃない』
行っていいのだろうか、まだ、付き合ってから3ヶ月くらいなのに。嫌じゃないと左右に首を振るも、不安そうにする私ににっこりと唇の輪郭に弧を作った綾子さんは口を開く。
『紘平はね、家に彼女連れてきたことないし、聞いたこともなかったから、お母さんも安心してるんじゃない? 私は弟より妹が欲しかったんだ』
さらっとそう言って、『嘘じゃないからね?』意味ありげな笑みを漏らし、そう付け足した。
『それはそれは、ご心配お掛けしてすみませんでした』
不快そうな声を出しむくれている彼の、なかなか見ることができない姿に、姉と弟のやり取りも、もっと見ていたかったのだが綾子さんの旦那さんが迎えにきてしまい『待ってるからねーっ』と、大袈裟に手を振って仲良く帰って行った。
しーんとなったリビングのソファーの上で、綾子さんみたいに温かい人になりたいと彼に話すと、思い切り片方の眉をぴくっと動かした。
『温かい? どこが? 紗希はそのまんまでいいよ』
私の肩に腕を回して、いつものように頭をなでなでしてくれた。
お盆には彼の実家へ連れてってくれた。聞いた話の通りのどかな町だった。優しそうなお母さんに、気さくなお父さん。婿養子の綾子さんの旦那さんの良さんも優しそうな人だった。温かな家族畏まりっぱなしの私に彼は、『気遣い過ぎ』と、なんとか和らげようとしていた。
すっかり気兼ねしてしまっている私に、綾子さんも一緒になって解してくれて、時間が経つに連れ肩の力が抜けていき、絵に描いたような仲睦まじい家族に、居心地のいい巣を見つけた小鳥のような、そんな安心感を覚えた。
私の知らない彼の、幼少期からのアルバムを引っ張り出してきてくれた綾子さんだったが、彼が『絶対ダメ』って頬を赤くさせ、猛烈に拒んだものだから見せてはもらえなかった。綾子さんに『何よ、アルバムくらい。小さい男』なんて言われても見せてくれなかった。
それでいて私の部屋に来たときは、本棚から勝手にアルバムを覗いて見ていた。私の嫌がるようなことをしなかった彼は、『見たかったの』と、微笑んだ。その優しい表情を見せられれば、恥じる気持ちはどこかへ吹っ飛んでいった。



