『お母さんが代わりなさいって』
『…はいはい』
渋々と電話を代わった彼の腕をすり抜け、いつまでもこうしていられないと観念した私は、緊張した足取りでリビングへと姿を見せる。
ソファーの背もたれに寄りかかっているお姉さんは長い髪を揺らし、こちらを物珍しそうに見上げていた。
『…すみません。あの、…紘平さんのお姉さん、ですよね? 初めまして、柏木紗希といいます。お姉さんのことはよく、紘平さんから聞いてます』
と、こんなところを見られたのだから、挨拶くらいきっちりしておきたかった。
上から下までなめ回すように見るお姉さんに、今の言葉は軽かったのかな。それ以上言えば言い訳に聞こえちゃうし。髪と服は出てくる前に整えた。
お茶とかコーヒーを出すべきなのか、ここは私の家じゃないし。お客さんだと思えばいいのだろうけど、そういうわけにはいかない。だって相手は彼の家族、お姉さんだ。何にしても、印象は最悪なのだから。と、この短い間に頭の中が忙しかった。
『…へぇ、根性あるわね。てっきり紘平の後ろに隠れながら出てくるのかと思った。かわいいじゃない、いくつ? 大学生?』
『いえ…、23です』
『…嘘でしょ?』
本気で驚いたような顔をしていた。でも、すぐに笑顔を向けた。
『25にもなって彼女いないのは姉として心配だったの。ごめんね、驚かせて。安心した』
と、笑った目元は彼にそっくりだった。
私は、もし綾子さんに会うことがあるならば、謝らなければいけないと思っていたことがあった。
『あの、実は…、綾子さんに謝らなければいけないことがあるんです。綾子さんがここに置いていった新品の洋服やスキンケア用品、前に勝手に使ってしまったんです。ごめんなさいっ』
その場で頭を下げ、『お金払います』そう告げて、ソファーの横でくたっと寝そべっていた鞄から財布を取ろうと屈み込む。



