優しい胸に抱かれて


夏の暑い日。ドアロックを掛けていなかった彼の部屋に、突然女の人が上がりこんで来て、寝室のドアはいとも簡単に開けられた。

『紘平! 聞いてよっ』

目を覚ました私は彼に抱きついたままの状態で、ウェーブヘがかったロングヘアを揺らし、威勢よく入ってきた女の人に彼の腕の隙間から驚いた視線を向けた。もちろん、その女の人も目を丸くして驚いていた。瞬きをしたのは女の人が言葉を発した時だった。

『なっ、何、女連れ込んでるよ! 変態! どんな女よ、変な女だったら容赦しないわよ。私が見定めてあげる』

ぱちくりと瞼を開け、あ、この人は話しによく登場する彼のお姉さんだ。

閃いたのと同時に、こんな恥ずかしいところを見られ開いた口が塞がらないとはこのことだと思った。


これが、彼のお姉さん。綾子さんとの印象的な初対面だった。23年、生きてきた中で一番といっても過言ではないくらいの、恥ずかしい場面だった。


タオルケット1枚で抱き合っている姿が、よほどふしだらに映ったのか、足音を立てるお姉さんは部屋を行ったり来たりし始めたようだった。

耳の側で『ごめんな? 嫌な思いさせて』と、彼が謝っていた。それを否定するように、私は首を横に振った。

自分の弟が誰かも分からない女とベッドで寝ているのだ。もし、私がお姉さんだったらと考えた時、取り乱すお姉さんの気持ちは分からなくはなかった。でも、この状況はとにかく耐えられそうにもなく、タオルケットを頭からかぶっていた。

『お母さんっ! 聞いて、紘平が女と淫らなことしてるの!』

『寝てるだけで淫らって…』

『同じことじゃないの! よくその格好で言えるわね!』

『勝手に入ってくるからだろ。自分だって家で家族がいようがお構いなしだったくせに。ここは俺の部屋なんだから。それに、服は着てる』

お姉さんはどうやら、彼のお母さんに電話をかけているようで、この場合私はどうすべきか見当もつかず、まだ彼の腕の中で顔を隠していた。せめてもの救いは、お互いがきちんと服を着ていたことだけだった。