優しい胸に抱かれて


金曜の夜はレイトショー。同じシーンで笑い、驚き、感動し泣いた。

『まだちょっと涙目になってる』

そう私が笑うと『これは貰い泣き、紗希のせい』って、私のせいにした。


私がナポリタンを作って、彼がオムライスを作る。お互いが、お互いの作ったものを食べる。

『美味しい…?』

『紗希が作ったものなら何でも美味しい。それに、紗希と一緒に食べるともっと美味しい』

『何でもは言い過ぎです』

『そう? でも、事実だから』


たくさん色んなところへ連れて行ってくれた。あの灯台にもよく行った。

『今日はどこ行こうか?』

『あの灯台、また行きたい』

地理が詳しくない私は馬鹿の一つ覚えみたいに、あの日見た灯台に行きたいと口にしていた。惨めで苦い思いをした日だったけれど、初めて連れて行ってくれたところだったから、そんな思いを楽しい記憶に塗り替えられるように。

不思議なもので、あの時は淋しそうな顔をしていた灯台は、その時、その時で違う表情を見せていた。それは、私の気分がそうさせていたようで、楽しかった時期は生き生きと映し出していた。


6月も終わり、夏目前。会社では主任、敬語。プライベートの時間は名前で、敬語を使わない。この使い分けがきちんと出来ていて、この関係には慣れていた。

『明日は富良野に行こっか? そろそろ、ラベンダーが見頃だから』

ラベンダーと聞いて[建築士の花園]が頭に浮かぶ。

『建築士の花園ってどこなの? 花壇?』

『あははっ、花壇じゃないよ。花は…ないな。あそこはいくら紗希でも教えられない。他部署も知らない、店舗デザイン事業部、建築士だけの場所だから。内緒』

『なんだ、花壇じゃないんだ…。その名前、誰が付けたの?』

『島野さんじゃないか? 俺が入った頃にはもうその呼び名だったから』

『花園なのに花壇じゃない…』

島野さんの下にいたのはたったの1年だったけれど、やっぱりおかしな人だと思っていた。

ルートにもよるけれど、札幌から富良野までは120キロから150キロと教えてくれた。

生まれ育った北海道にも関わらず土地勘のない私に、彼は訪れた先々の距離を札幌から何キロと教えてくれた。