初日の夜、お互いの家族の話をした。彼の実家は町で建設会社を営んでいることを教えてくれた。建設会社といっても土木工事関係だから、会社の敷地に家があるものだから、田舎の下品なおやじ連中の集まりだと言っていた。
お姉さんの旦那さんが婿養子に来てくれたから、長男だけど札幌で自分の好きなようにさせてもらえるとも言っていた。一人っ子の私は、そんな賑やかな彼の実家が羨ましいと思いながら聞いていた。
『マンホールの設置にも図面、小さな看板を立てるにも図面、細い側溝を掘削するのも図面。何かを造るのには図を起こす、図面には色んな人の思いが詰まってるんだなと。だけど、ただ線を引っ張ってるだけの図面に見えていたのが、いざ勉強してみたらたくさんのルールがあって、簡単に考えていた自分が軽率だった』
『でも、その夢実現したんですから、夢を叶えたくても簡単にはできないことをやってのけたじゃないですか?』
『まだまだ、これで終わりじゃない。まだやっとスタートしたところ。一つ叶うとまた別の叶えたい物が増えてくるように、人間欲張りにできてるんだろうな。まだたくさん叶えたいことがあるから』
『叶えたいこと?』
『知りたい?』
そう聞かれ、ぶんぶん頭を振った私に『内緒』って、意地悪な声が落とされる。不満げに頬を膨らませ見上げれば、柔らかな視線とぶつかった。
『一つだけな? 紗希と2人の時間をずっと楽しめたらいいなあって思う』
『…それなら、私も一緒です』
こういうのを幸せって呼ぶのかと、彼の胸に頭を埋めてそう感じた瞬間だった。
『…ところで、紗希の子供の頃の夢はなんだったの?』
『え…、えっと…』
もっと、もっと。と、次のことへ挑戦し続ける彼の夢話のあとに、とてもではないが言いにくいそれを『ぱ、パン屋さん』と、口ごもった小声で吐き出した。



