優しい胸に抱かれて

「じゃあ、私はこれで。ぞろぞろいても仕方ないので戻ります。彼女、お願いします」

「えっ! 係長、戻っちゃうんですか? 私はどうしたら…」

「いつも私に手芸のこと教えてくれるみたいに、余裕があれば会話に参加してくれる? あとは2人に任せていれば大丈夫、心配いらない。プライベートは褒められたものじゃないけど、仕事は誰よりも信用できるから。私の代わりにきちんと見届けてくれる?」

 苦笑いを浮かべる彼を見ないように、心配そうにする丹野さんの両腕を掴み、もう一度「大丈夫、安心して」と告げる。彼女は安心したような顔をして頷いた。

 本来ならば、連れてきた私も一緒にいるべきなのだろう。きっと一人で戻ればまた島野さんに怒鳴られる。

 でも、この2人なら安心して任せられる。

「柏木ー、プライベートはって、それはないんじゃない?」

「ほんとのことでしょ」  

 平っちを軽く睨んで、遠くから歩み寄る澤井部長と他数名の姿を捉えた私は、「じゃあ、お願い」それだけ言い残し三人に背を向ける。

「いやあ、お待たせしました。本来なら社に来てもらうのが筋なんですがね」

「いえ、気にしないでください。売場、楽しんでいたところです」

「こっちは企画部の能登谷です。おや、工藤さん。うちの商品で何か気になるものでも?」

「羊毛フェルトでも挑戦してみようと思いまして…」

「そうでしたか。男で、しかもお若いのに、挑戦しようとは感心しますよ」

「これのレッスンはやってないんですか?」

「残念ながら…。羊毛フェルトのレッスンか…」

 早速、話に華が咲いた様子で店の奥に消えて行ったのを、離れたところから見届けた。