優しい胸に抱かれて

 しばらく対峙したのち、何かを言い足そうな顔をする彼は、メモ帳に張り付いていた付箋をぴっと剥がし、仕方なしに笑って頷き、口を動かす。

「物足りないっていうような内容じゃないだろ。非常に中身が濃いからかえってプレッシャー」

 そう言うと、顔をしかめた彼は私を見つめている。それを気づいていないとでも言わんばかりに、私はつらつらと商品の説明を始めた。

「責任は私が取ります。…ちなみにこれはタティングレースのキッドです。このシャトルを使ってレース糸で編むんです。こんな風にビーズを組み合わせたり。二人が見ていたのは羊毛フェルト。ニードルでひたすら刺していけば、これがこんなマスコットになるんです」

 ワゴンの中には羊毛フェルトの綿がびっしり並び。それを一つ手に取り、陳列棚にかけてあったキッドの写真を見せる。

 どちらのキッドにも必要な道具がセットになっていて、[初心者でも簡単]のキャッチコピー付きだ。私の手からキッドを奪った彼はまじまじと見入っている。

「へえー、これがこうなるのか。俺でも出来る?」

「…作ってどうするんですか?」

「飾る」

 飾るって、ボケてるのか本気なのかわからないそれに、私は本気で答えるべきなのか。

「…難しいと思います」
 
「どれがいい?」

「…本気なの?」

「俺はいつだって本気」

「…これと、これなんかいいんじゃないですか?」

 敢えて難しそうな、でも可愛い犬のポメラニアンとモコモコした体の羊を選ぶ。

 素直にその二つともう一つ、桜色のタティングレースセットを手にレジへと持って行き会計を済ませる。横で平っちが「工藤さんそれ、マジでやるんですか? 本気ですか?」と、おちょくっていた。