『柏木、ぼけっとこっち見てるなよ。怖いぞ』
佐々木さんの声が飛んできて、はっとして見回してみると全員が私を見て大笑いした。
『何か困ってんのか?』
『柏木が困ってるのはいつもだろ』
『そりゃそうだ』
また笑うみんなのいつもの顔がそこにはあった。
『べ、別に困ってませんっ』
慌てて取り繕うかのように机の上の散らかった紙を纏め、立ち上がって日下さんの席にそれを返す。
前川さんの言っていたことはこれか、と。
私だけじゃない。みんなも悩んでもがいて足掻いてた。それでも余裕そうに自分を映し笑い飛ばして、後輩の私を騙している。頼りない背中には誰も着いて行かないから。
だけど私は、みんなの真剣に何かに向き合っている姿を、頼りないとは思わなかった。
解らなかった言葉たち。
騙しているわけではなく、自分が取り乱せば後輩は不安になる。冷静な判断が出来なくなる。それを見せないようにしているんだと、ずっと後になって先輩たちの背中が教えてくれた。
部長は私にも解るように鬼ごっこなんて、比喩を用いて聞かせてくれた。
自分で気づいて、考えて、理解して、納得する。後になって気づくことはたくさんあって、気づいた時には処理できなくなってジタバタ足掻いている。それが、いつまで経っても付き纏う。



