優しい胸に抱かれて


もうちょっとどころか、状況は悪化しているのに、何がもうちょっとなのだろうか。

毎日、何枚も何枚も描いた日下さんのデザインは、どれも受け入れられなかった。私がプランニングでしていることと言えば、具体化しないものに色を乗せて什器を合わせるくらいだ。その場で白い紙に描いて表面化させるのは日下さんだった。

会社に戻って、プランニングで描いていた日下さんのパース図とはいえないような下絵と、それまでのデザインとを見比べてみた。どれも悪くはない、悪くはないけれど、ずば抜けてよくもない。

やっぱり最初の案がしっくりくるのにと、暗礁に乗り上げてしまっているのではないかという、不安を余所に。

『じゃ、お先』

驚く私を無視して、帰社するや否や当の本人は軽やかな足取りで帰って行った。


仕事を取り上げられてしまったみたいに、急にすることがなくなって周りを見回した。それは駅の改札でまだ来ない待ち人を待っているかのような感覚で、ぼんやりとしたものだった。

険しい顔つきで判子を押す長島課長に、身振りを交えて賢明に説明している課長代理がいた。佐々木さんと施工班で何やら口論している。その脇を頭をぐしゃぐしゃとかき回しながら、深い溜め息と共に課長代理が席に戻っていった。

隣の席では平っちが書いては消してを繰り返した用紙がボロボロになっていて、その斜め向かいでシャープペンを握ったままの彼が焦点の合わない何かを見つめていた。

何度も見たことのある光景が、始めてみるかのような錯覚に感じらた。

普段は澄ました顔を並べる先輩たちの表情からは余裕が消えていた。私の机に並べられた紙切れは不鮮明に、視界の隅っこで霞んでいた。