その次の日。
日下さんが頭を抱え画面を眺めていた。この時、私は日下さんが手掛けている美容室プラージュ山鼻店のアシスタントを任されていた。
どこかすっきりとしない表情に声を掛ける。
『何かあったんですか?』
『…もしかしたら原案からやり直しかも。先方から連絡あってちょい渋ってて。だから、契約書はまだいい』
『え、だってこれ見せたときは…』
インパクトがあるってあんなに好印象だったのに、渋っているようには見受けられなかった。
『見たときはいいと思っても、後から違うと感じるのはよくある話。一発で決まることの方が珍しい、思わせぶりに手応えがあろうがなかろうが。そんなもんだ。プランニングもやり直すから昼から開けとけ』
『はい』
やり直されたクライアントとのプランニングは毎日行われた。日下さんは毎日夜中まで作業を続けていた。
最初はイメージが違うと根本からダメ出しされ、次に雰囲気が違うと突き返された。色が落ち着かないと言ったり、照明の形が気に入らないと、日を増すごとに注文は細かくなるが、どれも具体的ではなかった。
私に対しての指示は『思ったことを言え』。それだけだった。
それでも日下さんは、会社で私に見せるような嫌そうな顔一つせず、終始ニコニコと笑顔を絶やさなかった。
『やっぱり、会社戻ってからもっと具体的に案を練ります』
『いや、余計な先入観はいらない。最初にも言ったように、お前はあの場で自分の思ったことだけを言えばいい。もうちょっとだ』
会社へ戻る車の中で日下さんはそう言って、にやりと口角をあげた。



