『…日下さんは、悩んだりするんですか?』
『はぁ?』
『私は誰に騙されているんですか?』
『…お前、頭大丈夫か?』
日下さんから学んだことを思い返そうにも、一人で突き進んでいるイメージしか浮かばなかった。前川さんに聞かされた話の一部分を日下さんに問い質す。
『…なるほどねぇ。お前は情けなくて頼りない先輩に着いていく気になれるか?』
『…うーん。例えば誰ですか?』
『誰がとかじゃねぇよ。噛み砕かないと解んねぇのかよ、疲れる女だな』
私の周りには、情けなくて頼りない先輩がいなかったから見当も付かない。だけど、もし自分が自分の後輩だったら、情けなくて着いて行かないだろうと思った。
『…日下主任は、工藤主任のことをライバルだって意識してるんですよね? 鬼ごっこしてるんですか?』
『鬼ごっこだと? 遊んでるんじゃねぇんだよ』
私の聞き方が間違っていた。片眉を上げこれでもかと目を細くさせている。どうみても、お前、馬鹿にしてんのかって、軽蔑した顔をしていた。たじたじと小声で『そういう意味じゃなく…。すみません…』と、謝った。
肩を窄めた私をを横目に日下さんは、口の端に孤を描き鼻で笑った。
『あいつに限らず、全員ライバルみてぇなもんだ。競う相手がいるから楽しいんじゃねぇかよ。ま、女のお前には解らねぇか、一生この仕事していくって決意ってもんがあるから必死になるんだよ。女は仕事辞めて結婚すりゃいいんだから』
『なんか心外です。結婚しない人だっていますよ』
まるで仕事が嫌で結婚するみたいな言い方に聞こえた。



