『お前の先輩は全員そうだ。今でもみんな不器用ながらもあくせく働きながら、ジタバタ足掻いている』
『今でも…、ですか?』
『馬鹿話ばっかりしているから気づかないか。余裕そうに見えるか? そう映るってことは、みんなに騙されているんだよお前は』
言い終わると煙を口から鋭く吐いて、『ふっ』と鼻で小さく笑った。
ピンとこないのは当然だった。
みんなが平然と仕事をこなしていて、こんなものは朝飯前くらいにしか見えていなかった。時には談笑し話を脱線までさせて、そんな余裕が羨ましくていつになったらそんな風になれるのだろうと、漠然と考えていた。
『…騙して何になるんですか?』
『それは自分で答えを見つけろ。今は解らなくても時期に嫌でも解るときが来る。あの時、あのやかましい上司が言っていたのはこのことか、と。その時にはお前もみんなと同じように平気で誰かを騙してるだろうよ』
『はい…』
あたかも、解ったかのようにそう返事をした。そう簡単には教えてはくれないのはいつものことで、要するにあくせく働いて解れってことなんだ。
『まずは挨拶、言葉遣い、身のこなしに気を遣え。それがプランニングや現場で出来なきゃ行かなくていい。これだけは新人に教えろ、新人だろうが建築士だろうが施工班だろうが、現場に出向けば全員がプロとして見られるんだ。その3つ以外の後のフォローはお前等先輩の仕事だ』
『はい』
『だけどな、今すぐお前にどうこうしろとは言っていない。自分で自分のフォローが出来るくらいになるまでだ。それまでは自分なりに経験を積め。主任クラスの連中は全員、早く自分たちのいるところまで追いついてこい、とは思っているだろうよ』
追いつくことなんてあるのだろうか。頭の中で想像してみた、うっすらでも映像が浮かび上がると思っていたイメージは、その影すら浮かばなかった。



