『うちの建築士は注文が多くて仕事が捗らないよ、全く』
なんてぼやきながら、電動鋸で線の通りに角を落とす。
『そんなに近寄ったらズボン、燃えるか溶けちゃうぞ?』
『え…?』
ごおっと唸り音を発し熱風が吹き出している、外に置かれた小型のジェットヒーターの前で、暖を取っていた私の頭に優しい声が落とされた。見上げると、彼は指さしをしながら佐々木さんに要望を伝えていた。
熱いそれからばっと離れ、防寒ズボンを確認してみるとお尻の部分が少しの溶けかかっていて『溶けた?』と、笑いかけられオーバーに頷いた。
ストーブ感覚でいた私は恐ろしくなり、更にちょこっと一歩ジェットヒーターから距離を取り二人の様子を見守っていた。
会社で見るスーツ姿の彼も好きだったけれど、現場で作業用の防寒ジャンパーを着込み、時々鉛筆を耳に挟さんで顎を触りながら考えている姿も好きだった。
『それと、ここと』
『まだあんのかよ? 一片に言えよ』
『それと、あそこの壁紙が浮いてる気がします。あと、ここのヤスリ足りないですね。あっちのベンチも』
『壁紙は貼り直しておく。一通り、後でチェックする。もう二人とも帰ってくれ、仕事にならん。注文付けてくるのは建築士だけでたくさんだ』
ぶつくさ吐き捨てながらも、指摘された箇所を目視していく佐々木さんに彼は口を開いた。
『これも、クライアントに満足して貰うための行程の一つですから』
『うるせえ! いちいち言われんでもわかってるよ。もういいから早く帰れ』
佐々木さんは言った彼ではなく、私を睨みつけていた。
『これで、わかったか? 建築士の要望が多くて俺は忙しいんだ、インテリアは後だ。明日ならやってやる』
ぱあっと目を開き頬を緩めると『柏木の顔見ると気が抜けるから、早く連れて帰ってくれ』って、罵られた。
明日ならやってやると約束してくれた佐々木さんは、ぶつくさ文句を言いながらも細かい部分まで、私が望んだ通りに仕上げてくれた。



